インタビュー7 |
アメリカ在住、卵子提供を受けて現在妊娠中…磯野律子さん(仮名) 聞き手・文/白井千晶 (インタビュー2012年12月) |
アメリカ在住、ご主人はアメリカ人。日本で不妊治療をして、アメリカで卵子提供を受けた磯野律子さん。
40代後半、今現在妊娠中の磯野さんへのメールインタビューをお伝えします。
結婚と不妊治療
アメリカに留学して以来、アメリカに住んでいます。
30代後半の時、アメリカ人と結婚しました。
アメリカに留学、仕事に集中して、晩婚。キャリアを追求していました。気がついたときは自分の卵子での妊娠が難しい年齢となっていました。子どもの頃から必要以上に「よき母になる」ようにと教えられてきたことに反発してきましたので、遅くに結婚して、「やり残したことは母親になること」と自分が思うとは考えていませんでした。
不妊治療を本格的に始めたのは43歳からです。タイミング法、顕微授精、子宮筋腫などの手術もしました。
顕微授精は日本で行いました。筋腫の手術で日本の方が技術が優れているかもしれないと思ったのと、費用の違いからです。アメリカでは顕微授精に1万5千ドルほどかかります。
今年の採卵と顕微授精が最後でした。採卵をし、受精卵をひとつ戻すことはできたのですが着床はせず、凍結用の受精卵は育ちませんでした。大変ショックでしたが、逆にすっきり諦めがつきました。もし凍結卵が残っていたら、それを戻すための時間と努力とお金を費やしたと思いますが、成功する確率は低かったと思います。
次のステップへ
養子縁組も検討しました。しかし私の住んでいる州での公的な養子縁組は、親が里親を決めるので、自分の親よりも年上かもしれない私達夫婦を選択する可能性は非常に低いと言われました。日本での養子縁組も考えましたが、こちらも年齢的に無理だと言われましたので、諦めざるを得ませんでした。
アメリカでは養子縁組や卵子提供などがそれほど稀なことではないので、夫は私が母親になれることが一番幸せと思えるのであれば、形にはこだわっていないと思います。私がそうしたいのであれば、そうすればよいと言っていました。
卵子提供に向けて
自分の血とDNAの繋がった子供がほしいという気持ちが強く、卵子提供を考え始めた時も悩みましたし、実際話を進め始めてからも “本当にこれで良いのか?” 、“後悔しないか?” と自分に問いかけなかったと言ったらうそになります。やはり自分の卵子が一番で、自分の卵子での子供がほしかったという気持ちはありますが、年齢的にやっぱり無理だったのだと納得しています。
アメリカで10年以上住んでいながら、常に自分は日本人でアメリカ人にはなれないと思っています。日本の血をひく子供に、私の育った美しくて、豊かな日本について色々と教えてあげたかったため、日本人ドナーにこだわり、日本、アジア系のエージェントを複数検討しました。
卵子提供と着床前診断
検討したエージェントの中には、オフィスやスタッフの実態が曖昧で、実質的な請求金額も不明、信用できないと感じたところもありました。そこ以外でも、日本人ドナーが少なかったり、待つ期間が長かったり、送迎や通訳など諸費用がとても高く設定されていたりして、契約には至りませんでした。
最終的には、不妊クリニックに登録している卵子ドナーで大変気に入った方が見つかったので話を進めました。こじんまりしたクリニックで、パーソナルケアが行き届いています。日本人ドナーの数は多くはないですが、待つ期間は短かったです。不妊クリニックに登録されているドナーなので、エージェント費用、弁護士費用が発生せず、クリニックに日本人アシスタントがいましたが通訳料金も請求されませんでした。検査や投薬、顕微授精代、着床前診断などすべて含めると、費用はおよそ3万ドル(2012年秋の為替レートで約250万円)でした(私たちの移動・滞在費用は含みません)。
このクリニックでドナーを選ぶときには、私と同じ血液型にはこだわりませんでした。アメリカ人は自分の血液型を知らない人が多いです。このドナーさんの写真を見て第一印象がとても気に入り、写真を見たときから、「この人だ!」と自分で感じるものがありました。
現在妊娠中
受精卵は20個弱できたのですが、着床前診断をおこなったところ、正常卵は半数以下でした。正常でなかった受精卵の一部は精子側に問題があったものでしたが、健康で若い人の卵子でも正常でない(全てトミソリー21)確率が非常に高いこと(医師の説明では20代で60%)を痛感しました。
着床前診断については、更に費用もかかり、かなり悩んだのですが、異常のある受精卵を戻して、流産などを経験せずに済んだので、選んでよかったと思っています。3個移植して、1個が着床し、現在妊娠中期です。流産の心配もありますし、年齢的にも、体格的にも、この妊娠はかなりきつく、ひどいつわりで7週間ほど苦しみました。12月末でホルモン補充は終了しましたが、体力的にも精神的にもかなりつらかったです。今かかっている産婦人科医には、卵子提供を受ける予定であるところから話をしているので、ずっとサポートしていただいています。
子どもへの告知はしないつもり
卵子提供のことを知っているのは、夫と医師のみです。今後も私たち二人だけにとどめるつもりです。私の担当医師も「話す必要がない」「できるだけ少人数にするべき」との見解を持っています。子供にとってネガティブになる可能性のほうが高いと思うので、あえて知らせる必要はないと考えています。
ドナーさんの個人情報は知りません。万一子供が、遺伝子上の医療的なサポートが必要となる場合は、クリニックを通してコンタクトは取れる形となっています。ドナーさんの特徴は大まかなことしかわからないのですが、逆に自分の卵子での子どもには自分と同じような限界、欠点などをもつ可能性があったかもしれないけれど、そういった点では自分の能力がない面も持ち備えて生まれてくるのかなと思っています。この子の将来の可能性がとても楽しみですし、いろいろ驚きを期待しています。
妊娠している子どもが無事生まれたら、私たちはその後の移植は考えていません。その際は2個残っている凍結胚盤胞はクリニックの研究用に提供するか、ほかの人に提供したいと思っています。
今の人生で私が母親になるためには、卵子提供が最後の選択だったと思っていますし、夫とつながりのある子どもを持てることは、楽しみです。周りの友達に次々と子どもが生まれ、本当に焦りましたし、とても悲しい長い時間を過ごしました。本当に出遅れてしまいましたが、私たちの元にきてくれる子どもを愛情にあふれた家庭で育てていきたいと思っています。
補足・白井千晶 磯野さんは、不妊クリニックが独自に登録しているドナーから選んで契約しました(インタビュー6の松田さんも同様)。提供を受ける人とクリニック、ドナーとクリニックがそれぞれ契約書を交わし、エージェント料や弁護士料はかかりません。 ドナーの卵子を複数人で分け合うエッグ・シェアリングという方法もあります。磯野さんは、日本人ドナーの卵子をシェアする可能性は少ないだろうと検討しなかったそうです。 |