卵子提供などの生殖医療コーディネート会社代表、川田ゆかりさんに聞く



コーディネーターの立場から卵子提供を考える

川田氏

カリフォルニア州では、第三者からの卵子提供が20年以上にわたっておこなわれており、実施に当たっては、専門弁護士を介して、判例に沿って、問題を回避できるような契約を締結することが一般的になっています(法律に合法だと明文化されているわけではありません)。
川田さんがアメリカ・カリフォルニア州・サンフランシスコ市で生殖医療コーディネートを開始したのは、1995年。 現在、イントロメッド社の代表取締役社長として、インターナショナル・ファーティリティ・センター(IFC)を運営しています。 ここでは、主に卵子提供について川田さんのお話を紹介します。(聞き手・文/白井千晶)

2011年8月08日掲載



IFCが目指すもの

 IFCの業務活動の最終目標は、ご夫婦に幸せになっていただくことです。
妊娠することが最終的な目的ではありません。
技術的には、卵子提供で60歳の方でも妊娠させることは可能ですが、そこまで高齢になると、リスクが高すぎます。
 お母さんになる方も健康でいていただきたいのです。
そして、予測できるリスクは回避して、お子さんを授かること、
健康で幸せな家族をつくることが、大前提であり、最終目標です。

 提携しているクリニックのガイドラインに準じ、IFCの最終目標の点からいっても、どんなご夫婦の卵子提供プログラム参加もお受けしているわけではありません。

 年齢制限もありますし、心身のご健康上のガイドラインもあります。また、ご結婚されている(事実婚を含みます)ご夫婦で、ご自分の卵子での妊娠が難しい時に、ご自身で育てるお子さんを希望される場合に限っています。
 これは門戸を狭めるために設定しているのではなく、ご夫婦に幸せになっていただく、お子さんを授かるのであれば、幸せな家族になっていただくという本来の目的に沿って設定したものです。ですから、年齢制限内で普通にご健康なご夫婦であれば、だいじょうぶです。

 最先端技術を使う治療であるからこそ、逆に今ある技術をどこまで使ってよいのか、その都度、さまざまな状況や変化を見ながら考え線を引いていくのが、私たちの役目だと思っています。


コーディネート業務とは

 IFCがおこなっているのは、生殖医療コーディネート業務です。
それに伴う情報提供、翻訳・通訳、治療プログラムの進行手配、日本人女性スタッフによる検診付き添いなどが業務の中心です。
 IFCでは、ドナーさんの選択肢を少しでも多くするため、複数の卵子提供者(ドナー)登録機関を通じて、ドナーさんを紹介しています。
IFC自体は、ドナーの募集・登録・管理はおこなっていません。
 ドナーさんは21~29歳の日本人・日系人女性が中心です(ご希望であれば他の人種のドナーの紹介も可能です)。
 21歳以上であるのは、カリフォルニア州では、21歳からが成人だからで、医学的・生物学的根拠だけでなく、法律的な根拠に則って条件を定めています。
 ドナーさんが提出するプロフィールは20ページ以上の詳細なもので、ご自身や血縁者の既往歴のほか、特技や趣味に至るまで、細かく記入されています。
 また、お顔立ちがはっきりわかる写真を少なくとも1枚はご覧いただけますし、ドナーさんによっては複数の写真をプロフィールに入れてくださる方もおられます。

 卵子提供プログラム参加を検討されているご夫婦についてはまず、メールや電話でやりとりさせていただいてから、東京オフィスで面談をさせていただきます。その後、正式に申込みされた場合に、クリニックに打診して受け入れの確認があってから、IFCとご契約になります。
 第一回目の渡米はご夫婦一緒で、担当医による面談・検診、血液検査、心理カウンセリング、卵子ドナーの紹介、ご主人の精子の凍結などをおこないます。
ドナー候補の方の書類は、帰国後でも、ドナーが決まるまで継続して閲覧していただける設定になっています。


情報提供について

 実施に当たって締結する契約は複数あります。
卵子提供を依頼するご夫婦とドナーさんの間に契約が交わされます。
また、IFCはそのお手伝いをする役務をおこないますので、依頼ご夫婦とIFCは、役務提供に関する業務契約を結ぶことになります。

 ただし、IFCでは、ただドナーを紹介して契約書を作成するのではなく、さまざまな情報提供をおこなっています。
 例えば、何度体外受精をおこなっても着床しないので、妊娠できないから代理出産を依頼したいと思っていらっしゃる方もあるかもしれませんが、それが卵巣の機能の低下や加齢によるものの場合は、代理出産ではなく卵子提供の方が適している場合があります。
 流産を繰り返しているので、子宮に問題があるから代理出産を依頼したいと思っていらっしゃる方でも、着床前遺伝子診断の方が適している方もいます[注:受精卵診断をおこなって異常のない受精卵を移植する]。
 これまでのご夫婦の不妊治療の経過や検査結果を拝見してみて、詳しくご相談すると、このように、ご夫婦が当初考えていた選択とは異なる選択に至る場合も少なくありません。

 このように、私たちはご夫婦のこれまでの不妊治療の経過や検査結果、不妊原因をうかがって、また、ご夫婦の希望をお聞きしていきます。また、心理カウンセリングも受けていただきます。リスクもお話ししますし、10年後、20年後のお話もします。
 そのプロセスの中で、最終的に、卵子提供を受けないことを選択される方もいらっしゃいます。
 IFCは、最初にお話ししましたように、ご夫婦に幸せになっていただくことが目標であって、お子さんを授かることがゴールではないので、夫婦ふたりで人生をエンジョイしようという結論を見つけることも、重要な選択肢のうちのひとつと思っています。
 幸せな家庭をつくることが大前提ですから、お子さんが授かることを強く願い治療に挑戦されるご決断をされたご夫婦には、現存する治療プログラムの中で一番適切であると考えられる治療技術をもってベストを尽くし夢が叶うようお手伝いします。
 このように<子どもを授かって>幸せな家庭をつくるだけでなく、夫婦ふたりの幸せな家庭をつくる、という選択肢を選ぶご夫婦もいらっしゃいます。

 サンフランシスコでは、卵子提供、着床前遺伝子診断、代理出産などの選択肢があるからこそ、ご夫婦それぞれの可能性の有無や現状について率直に情報提供や診断を受けることがしやすく、次のステップを考えることができるのだと思います。
日本でも情報提供を受けたり、相談したりする機会は増えてきましたが、このあたりが難しいのかもしれません。


補足(白井千晶)

依頼に適用条件があることについて

アメリカに限らず、卵子提供を受けることに対して、「適用条件」を設けないあっせん機関、コーディネート機関、医療機関は少なくない。
「適用条件」自体さまざまであるが、自己卵が望めない不妊夫婦が挙児を求める以外に、自己卵が望めても第三者の卵子を求めたり、年齢制限がなかったり、レズビアンカップルやゲイカップルが挙児を求めたりすることもある。

インタビューは2011年6月におこなわれました。都度の情報は、直接インターナショナル・ファーティリティ・センター(IFC)www.ifcbaby.netにおたずね下さい。 また、方針、手順、条件などは、エージェンシーによって異なることがありますので、個々にお確かめ下さい。
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