卵子提供エージェンシー代表、石原理子さんに聞く



アメリカでの卵子提供の実際
エージェンシーという立場から

 Part1 卵子提供の流れについて
 Part2 エージェンシーとしての役割
石原氏

卵子提供は実際に、どのような手順で進んでいくのか、コーディネート・仲介する仕事にたずさわっている石原理子さんに話をうかがいました。石原さんは現在、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスにある卵子提供のエージェンシー、ミラクルベビーの代表です。ご自身も代理出産によりお子さんを授かった経験があります。(文/白井千晶)

2011年5月02日掲載
  


  Part1 卵子提供の流れについて

補足(白井千晶)
日本人が海外で卵子提供を受けること

日本には現在、卵子提供を認める法律も、禁止する法律もありません。
日本産科婦人科学会、日本生殖医学会、日本生殖補助医療標準化機関(JISART)、日本受精着床学会、厚労省審議会の報告書などでは、卵子提供を認めるガイドライン・報告書が提示されています。ただし、適用は不妊に限ること(自己卵子が期待できないは可、シングル女性、レズビアンカップルやゲイカップル、事実婚カップルは不可、等)、年齢制限(団体によって異なるが出産者は45歳まで等)など条件を定めています。
カリフォルニア州では、有償での卵子提供も合法とされています。
日本の民法では、出産者が母親とされるため、カリフォルニア州で卵子提供を受け、受精させて胚を移植、日本で出産した場合、遺伝的つながりはなくても出産者が戸籍上の母親になります。配偶者がある場合は、日本国民法の嫡出推定により夫が父親となります。
これはあくまでカリフォルニア州で卵子提供を受けた場合のケースであり、各国・州の法律でこれらの状況は異なってくる可能性もあり、法律が変わることもあります。

インタビューは2011年1月におこなわれました。都度の情報は、直接ミラクルベビーにおたずね下さい。 また、方針、手順、条件などは、エージェンシーによって異なることがありますので、個々にお確かめ下さい。
babycom+21世紀ライフクリエート・ラボは、読者の皆さんに情報を提供するために、さまざまな立場の方の生の声を届けたいと思っています。とくに一個人、一企業を支援する目的はありません。


卵子提供の流れについて

石原理子:
 詳しくはサイトにありますが、標準的な流れを説明します。

【卵子提供を受ける方(依頼者)の流れ】
1.メールまたは電話でやりとり
2.1回目の渡米
 ・クリニックの受診
   依頼者奥さまの健康状態や子宮の状態のチェック
   (卵子提供を受けて、妊娠、出産に支障がないかメディカルチェック)
   依頼者ご主人の採精・凍結
 ・ミラクルベビーのドナーのファイルを閲覧
 ・ミラクルベビーと依頼者の契約締結
3.帰国後、依頼者とドナー間の卵子提供契約書を弁護士とレビュー、契約締結
4.ドナーが採卵サイクルに入る。依頼者女性が日本で投薬、通院(子宮内膜のチェック)
5.2回目の渡米 ドナーの採卵→体外受精→移植
6.帰国して妊娠判定を待つ。

夫の精子で受精を試みる場合、採精のタイミングは、1回目の渡米に限られるわけではありません。ご都合によります。場合によっては、精子バンクを利用することもあります。

【ドナーの流れ】
1.登録申込、写真提出、面接 プロフィールシートの記入
2.諸条件が整っていると判断した場合に登録
3.依頼者から選定されたらミラクルベビーと契約の締結
4.医療検査、心理鑑定(、必要に応じ遺伝子病カウンセリング)
5.依頼者とドナー間の卵子提供契約書を弁護士とレビュー、契約締結
6.投薬開始、通院
7.採卵、謝礼金と交通費などの経費支払い

 依頼者の年齢制限などの条件はクリニックによって違います。事前にこれまでの治療暦や病歴、検査の結果をお聞きするなど、メールや電話でやりとりをしていきます。渡米時には諸検査をはじめ医師に子宮の状態を診て頂き、また奥様の健康状態も含め、妊娠・出産に支障がないかの判断をしてもらいます。卵子提供は希望すれば誰でもが受けられるものではなく、個々のケースによります。

 ドナーは、20歳から30歳までの健康な方で、ドナーになるにあたり、家族・本人の病歴(遺伝的な病気も含め)に問題がない方、精神的疾患、アルコール中毒、違法な薬物使用などがない方で、動機がしっかりとしていて、面接にパスした、責任感のある方に登録をして頂いています。
 ドナーに書いていただくプロフィールシートは、写真や血液型、現況、家族の病歴などのほか、成育歴、学歴や成績、性格、卵子提供の動機、趣味やスポーツ、得意科目、好きな動物などその方がよくわかるように、10ページ以上に渡る詳細なものになっています。依頼者は、事務所に来ていただいて、ご希望のファイルをすべて見ていただけますが、実際にドナーさんのスケジュールを確保できるのは、渡米され医師の検診を受けてからです。数ヶ月待っていただくこともありますし、すぐにプログラムに入れるドナーさんを優先する依頼者もあります。

Part2 エージェンシーとしての役割
 石原氏

石原理子:
 少なくとも私は、自分がドナーだったら、自分が依頼者だったら、ということを常に念頭においてコーディネートにあたっています。

【依頼者の方に】
 依頼者の方には、できるだけドナーさんの様子をお伝えするようにしています。排卵誘発が始まりました、とメールで伝えるだけではなくて、元気そうでした、3ヶ月前とこんなところが違いました、などとお伝えすると、会えなくても想像ができますよね。

 ドナーの方も、謝礼金で割り切っているなど言われますけれど、やはり赤ちゃんが欲しい方のためにやってあげたいという強い気持ちがないと絶対できないことだと思うんですよ。スケジュール確保から採卵終了まで、自己注射も含めて3ヵ月半ぐらいかかりますし、もともと登録の時も、選定されるかわからないのに、写真を送って、わざわざ事務所まで出向いて面接を受けて、長いプロフィールも手書きで埋めてというような面倒なプロセスを忙しい時間を割いてまでするのは、その方がドナーになることに対して真剣に考えていないとできない事と思います。

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 それから、依頼者の方にどのようなプログラムが適切か、医師の判断も仰ぎますけれど、十分に把握しきれていない方もいらっしゃるように思います。40代後半など年齢がある程度いっていて、体外受精を何度しても妊娠判定がでなかった方は、子宮に問題があると思って代理出産を考えておられるケースがよくあります。でも、その前にむしろご自身の卵子の老化から、よい受精卵が望めない可能性が大ではないかということ、そしてその方がまず必要なのは質のよい卵子、つまり卵子提供を受けることによって妊娠の可能性があるのではないかということです。代理出産は、いい受精卵ができたということが前提で進めるステップです。日本ではなかなかそのあたりの可能性と選択肢を医師に相談できない環境があるのかもしれませんが、状況を適切に判断することが必要だと思います。アメリカはそのあたりは、この卵子の状態では、あるいはこのFSHの数値では、うちではこれ以上やらない、など、早い段階ではっきり言われます。日本で見極めを得るのは難しいかもしれませんが、どういったプログラムが適切か、個人個人の医学的判断が必要だと感じています。

 また、卵子提供プログラム開始前から、プログラム続行中、またお子さんが生まれてからも依頼者の精神的ケアは必要になってくると思うので、一人で不安を抱え込まないよう、日本の生殖心理カウンセラーとの連携でいつでも安心して相談できる場を提供しています。

【ドナーの方に】
 ドナーには、まずはじめに、1時間半から2時間、時には3時間におよぶ面接をします。他社では、オンライン登録ができたり、電話1本だったりすることもあるようですが、私は会ったこともないドナーさんのファイルを依頼者にご説明することはできないと思っていますので、必ず面接をしています。日本人留学生の方が多いので、若いし社会経験がない女性も多いんですね。無断で面接に来なかったり、遅刻なのに連絡もなかったりすると、そのような方を登録しなくてよかったと思います。実際に卵子提供プログラムに入ってからそのような無責任な行動があると、排卵誘発の自己注射を忘れてしまったり、クリニックに時間通りにいかなかったりして、依頼者や医師に多大な迷惑をかけることになりますから。面接では、依頼者がここアメリカまで来て卵子提供を受けるということはすごく大きな決断であること、不妊治療の苦しさなどを説明してここまで来られた依頼者の気持ちを考えて欲しいし、生命の誕生に関わることなので、軽い気持ちでは登録して欲しくないと伝えます。始まったら責任をもって行動して欲しいし、途中で投げ出せないことも伝えています。簡単な登録にすれば、1ヶ月にそれこそ100人のドナーさんを増やすことも可能かもしれないけれど、私は依頼者もドナーも、パーソナルに対応したいし時間をかけて対応すべきだと思っています。

 ドナーには心構えや医療的な説明だけではなくて、卵子を提供して、どこかの家庭に赤ちゃんが生まれることはどういうことなのか、あなたも将来、家族、子どもをもつかもしれないよね、提供で生まれた子の親権はないけれど、その子とも血がつながっているんだよ、そういうことまで考えるチャンスを与えたいと思っています。他社で卵子を提供したことがあるから知っているかというと、ほとんど何も知らない方もいて、「そういうことだったんですね」と驚かれる方もいます。また、「依頼者を詮索してはいけない」とエージェンシーに言われているためか、クリニックで何も聞いてはいけないと思っている方もいますね。「あなたの身体のことなんだから、聞いていいのよ」と話しています。どんな薬か、どんな状態なのか、医師に聞くべきだと思いますし、ドナーにも自分の体に起きていることを把握して欲しいと思います。ほとんど説明もなく、登録しました、写真送って下さい、検査行ってください、採卵します、謝礼金です、さようなら、という粗末な、悲しいことはできません。日本語しか話せないドナーだったら、付き添って、卵胞が増えてよかったね、とかそんな些細な会話でも大切です。

 また、依頼者には、強制ではないですが卵子提供で生まれたお子さんの生年月日と性別だけでもドナーに伝えさせてほしいので、情報をリリースできないかと伺っています。その情報があれば、将来、ドナーさんやその家族が避けられることもあると思いますので[白井注:例えば、ドナーの子と依頼者の子の結婚(half siblingの結婚)等]。これらは依頼者とドナー同士が契約で決めることですが、私はそういった情報提供をして配慮していただく機会を作っています。ドナーにも配慮と精神的ケアが必要だと思っています。

 他社では、ドナーと依頼者が交わす契約書に雛形があって、変更なしにただサインをするところもあるようですが、少なくともミラクルベビーでは、ドナーにも、依頼者にも、それぞれ弁護士がつき、契約書に盛り込みたいことを入れていただいて、自分の権利や義務はもちろんのこと、相手に希望することに関して直接弁護士と話し合いの場を持つことができます。そこで代替案を考えたりして、1つ1つ、オリジナルの契約書を作成します。ドナーが受け入れるかどうかは別として、依頼者のドナーに対しての希望として写真を保持したいとか、将来子供が希望すれば会う事を可能にして欲しいと考えておられる方もいらっしゃいます。

 機械的にベイビーを作るマシーンのように物事が進んでいくのではなくて、卵子提供の依頼者とドナーは、直接会えないにしても、その気持ちを伝えるということがエージェンシーとしての大切な仕事だと思っています。


代理出産を依頼した経験者として

石原さんは、アメリカで代理出産を依頼してお子さんを授かった経験があります。カリフォルニア州では、有償の代理出産も合法です

石原理子:
 代理出産を依頼して、生まれてくるまでは、落ち込んだ時期もありました。妊娠・出産しないで、お母さんの気持ちになれるのかとか。弁護士を介した20ページ以上にも渡る代理母との契約書の作成とか、生命保険への加入で、出産者のリスクが目の前に突きつけられますよね。恐怖感もありました。もし出産者に何かあったら、その家族に、子どもにどんなサポートができるんだろう、ということもすごく考えました。

 出産に立ち会ったんですが、出産は、それ自体がすごく尊くて、感動して、衝撃的でもありました。私と夫の受精卵で、出産者とは遺伝的つながりはないわけだけれど、出産という行為自体が強烈な存在で。遺伝的つながりうんぬんではなくて、産む行為自体が壮絶で尊いし、生むことのつながりはすごいものだと圧倒されたんです。それからです、卵子提供のお手伝いをできないかなと思い始めました。遺伝的つながりはなくても、妊娠して出産するつながりは素晴らしいと思ったんです。

注:インタビューは2011年1月におこなわれました。都度の情報は、直接ミラクルベビーにおたずね下さい。 また、方針、手順、条件などは、エージェンシーによって異なることがありますので、個々にお確かめ下さい。

babycom+21世紀ライフクリエート・ラボは、読者の皆さんに情報を提供するために、さまざまな立場の方の生の声を届けたいと思っています。とくに一個人、一企業を支援する目的はありません。
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